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驚異の速弾き、ドック・ワトソン逝く

5月29日にドック・ワトソンが亡くなりました。

ドック・ワトソンは、アメリカの歌手であり、アコースティックギターの名手です。音楽のジャンルでいうと、伝統的なフォークから、ブルース、ブルーグラスというところでしょうか。

私がドック・ワトソンのレコードを初めて耳にしたのは、学生の時だったと思います。高校時代から趣味で弾き始めたギターに凝っていた頃で、当時はジョン・デンバーや日本のニューミュージックなどの曲を好んで弾いていました。

ある日、渋いジャケットに惹かれて買い求めた一枚のレコード。それが、ドック・ワトソンでした。針を落とした瞬間、怒涛のような速弾きのフレーズに圧倒され、これがギター演奏なのかと耳を疑いました。とにかく速い。一体どうやって弾いているのだろうと、繰り返し繰り返しレコードを聴きました。

今のようにビデオの映像が簡単に手に入る時代ではありませんでしたから、音楽専門店でギター譜を探し出しタブ譜とにらめっこ。なるほど、こんな風に弾くのかと、”Black Mountain Rag”, “Doc’s Guitar”, “Victory Rag”などの曲を夜通し練習したことを思い出します(むろん、ドックの弾くように弾けるはずはありませんでしたが)。

やがて海外の音楽ビデオが市場にも出まわるようになり、ドック・ワトソンのライブ映像を初めて目にすることができました。盲目でありながら、ピックを持つ手が機械のように正確に弦を弾きます。フラットピックでリズムとメロディーを一緒に奏でる奏法は、カーターファミリーらによって始められたといわれていますが、これに速弾きを加え進化させたのがドック・ワトソン。そして、多くの歌手が、ドックから影響を受けたといわれています。

ドックはずっと、息子のマール・ワトソンとともに演奏活動やレコーディングをおこなっていましたが、1985年に交通事故でマールを失います。悲痛な思いを乗り越え、その後も衰えぬギターテクニックをセッションやライブで披露していたと聞いていたので、突然の訃報に愕然としてしまいました。

この”Doc’s Guitar Jam”というビデオは、私の大のお気に入りです。

1992年にノース・カロライナ州ウィルクスボロで開催されたマール・ワトソン・フェスティバルのライブを収録した映像ですが、ドック・ワトソンを中心に、トニー・ライス、ダン・クレアリー、ジャック・ローレンス、スティーブ・コーフマンという当代きってのフラットピッキング奏者が集結してのスーパーセッション。アコースティック・ギター好きの人なら涙を流して喜ぶ垂涎の一本です。

享年89歳。今宵はこのビデオをじっくりと鑑賞しながら、巨匠の冥福を祈りたいと思います。