活動日誌

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大地震からどう命を守るか

本日午後、区役所内で防災対策特別委員会の勉強会が開かれ、傍聴しました。

テーマは「首都直下地震に備える――地域と共に進める地震防災教育」で、講師は東京大学地震研究所の大木聖子助教です。

「人間の方を向いた地震学者に」

いま、若き地震学者として注目を浴びている大木さんですが、出身は足立区で、昨年は北区の「東日本大震災を踏まえた災害対策のあり方検討会」の委員も務めて下さいました。

冒頭、自己紹介がわりに東日本大震災での痛苦の体験を語ってくれました。

大地震が起きる10日ほど前のこと、東北から修学旅行で東京に来た女生徒たちに地震の講義をした大木さんは、その生徒たちが全員被災したことを知りショックを受けます。

「本当に自分の身に大地震が起きると思って話をしてきたのだろうか。これまで数えきれないほど地震の話をしてきたけれど、それでどれだけの人が地震の被害から救われたのだろうか」――大木さんはこう自問自答したそうです。

その後、女生徒たちに再会し全員の無事を確認できたとのことですが、それ以来、大木さんは「地震のメカニズムを伝えるだけではダメ。地震からどう命を守るのかを伝えられる、人間の方を向いた地震学者になりたい」と決意したそうです。

日本に安全な場所はどこにもない

これまで記録されたすべての大地震の分布を世界地図でしめした大木さん。「世界の大地震の10%が、面積で1%以下の日本で起きています」と解説しました。

さらに「日本ではどこにいても大地震から逃れることはできません。『東北であれだけの地震があったから、しばらくは大きな地震は起きない』『自分の住んでいる地域では地震は起きない』と考えることは間違いです」と断言。

先ごろ東京都が発表した新しい地震被害想定については、「自然の営みなので、どこが震源地になるかは特定できない。想定をつくっているのはあくまでも人間なので、示された被害想定は起こりうるシナリオの1つくらいに考えてほしい。地震の起こる確率よりも、どうしたら死なないかの方が重要です」と指摘しました。

大地震で「被害者ゼロ」を実現できる国

その上で、「地震の揺れそのものではなく、人間が造った構造物が倒壊したり燃え広がったりして人が死ぬのであり、地震より強い構造物にすれば被害者をゼロにすることは可能です」と喝破。これは衝撃でした。

しかも、大木さんによれば「震度7クラスの大地震が来てもビルや住宅が倒壊しない街をつくる技術や経済力、見識を持った国が日本」とのこと。海外での講演活動も多い大木さんですが、日本にはこうした展望があることを語ってくれました。

地震から命を守る力をどうつけるか

講演の後半では防災教育に焦点をあて、子どもの頃から「地震から命を守る」訓練をすることの大切さを強調しました。

「地震被害の90%は自宅が凶器になっている」と指摘した大木さん。「今この瞬間に地震が起きたら命を守るためにどう行動するか、と常に考える力が必要です」とのべ、保育園・幼稚園、小中学校などで実践指導している避難訓練の実例を紹介してくれました。

大木さんが提唱するのは型通りの避難訓練ではなく、子どもたちを前にして突然、緊急地震速報のアラームを鳴らすという方法です。びっくりした子どもたちは、それぞれなりの行動をとりますが、訓練が終了したあとには一人ひとりの行動について、よかったのか悪かったのか、助かるのか助からないのか、を検証するそうです。

「一瞬で判断する力をつける」「人に言われるのではなく自分で判断する力を子どもたちにつけさせる」のがねらいだそうです。

被災の経験を“民族の知恵”に

17年前の阪神・淡路大震災以降も、日本では大きな地震被害が続き、昨年の3・11東日本大震災では想定外の津波被害、原発事故で未曾有の惨事を招いてしまいました。

それでも「地震は怖くない」というのが大木さんの話の結論です。

地震の揺れより強い街をつくり、どんな状況でも命を守る行動がとれる人を育てる――これに徹することが被害を最小限に抑えるための勘どころだということです。

これまでの地震研究や防災訓練のあり方を根本から見直し、「被災の経験を民族の知恵に」と結んだ大木さんの熱い講演に、大きな勇気をもらいました。