2013年10月30日(水) | 議会活動
企画総務委員会視察(第1日目・大野城市)
区議会企画総務委員会の視察で福岡県を訪れました。
今回は、1泊2日の日程で、大野城市と北九州市を視察しました。
第1日目は、大野城市の庁舎ワンストップサービスについての調査です。
羽田空港から福岡空港まで約2時間のフライト。地下鉄で博多に出て昼食をとり、JRで移動して大野城駅に降り立ちました。
大野城市は福岡市と隣接し、人口約9万6000人、議員定数20人という北区と比べれば小ぶりな自治体です。
駅前は人通りが少なく閑散としていました。
目的のワンストップサービスをおこなっている大野城市役所までは、タクシーに分乗して向かいました。
庁舎前には「強調躍進」と書かれた立派なモニュメントが建っていました。
さっそく庁舎内の会議室に案内され、まずはワンストップサービスについてお話をうかがうことに。
市民部市民窓口サービス課の担当者が、スライドを使って丁寧に説明をおこなってくれました。
大野城市の窓口改善は、2005年に当選した井本市長の選挙公約の実現として、トップダウンで始まりました。
その内容は、週末窓口サービス、コールセンター、総合窓口「まどかフロア」の「3点セット」と紹介されました。
こうしたサービスを導入した理由としては、職員数が全国トップクラスで少ないこと、これまでも積極的に民間委託を進めてきたことなどがあげられ、公権力を必要としない窓口業務を民間委託することで職員が専門業務に集中できる環境をつくることをめざしたものとのことでした。
週末窓口サービスというのは読んで字のごとく、週末にも窓口業務をおこなうというサービスで、具体的には第2、第4土曜日の午前中に開庁し、住民票や戸籍、転入・転出などの手続きに対応しているそうです。
珍しいのは、コールセンターです。
市民などからの問い合わせに対し、市役所の職員が直接応答する前に、まずはコールセンターが用件を聞きます。
市役所のサーバー上には、問い合わせに対する回答が「FAQデータベース」として準備されており、コールセンターの職員はこのデータベースを使って対応します。
FAQでは対応できない相談や市役所への苦情などは、コールセンターから市役所に電話をつなぎ、ここで初めて職員が対応することになります。
年間では約4300件の問い合わせを、コールセンターで処理しているとのことでした。
なお、FAQデータベースはWeb上でも公開されており、インターネットを通じて市民は誰でも検索できるようになっているとのことです。
続いて、総合窓口「まどかフロア」です。
まどかフロアというのは、市役所1階フロアにある市民むけ総合窓口のことです。
基本コンセプトは、庁舎に来た方に対して「わかりやすく」「使いやすく」「心地よく」手続きが終わることをめざす、というものです。
これまでタテ割りでおこなわれていた手続きを、窓口を一元化することでワンストップでおこなえるよう工夫されています。
また、ここが最大のポイントのようですが、窓口業務を3つの流れに分け、そのうち2つの業務を民間委託し、市職員の業務の軽減を図っているそうです。
具体的には、業務を「フロント(受付)」「ミドル(入力)」「バック(審査・照合)」の3つのラインに分け、それぞれのラインごとに仕事を完結させます。
フロントとミドルのラインは、委託業者が担当し、バックは市職員が担当します。
例えば、他の自治体からの転入手続きをする場合、来庁者が必要事項を記入した用紙をフロントラインに提出します。受付が完了したら、小さな窓から用紙をミドルラインに送ります。
ミドルラインでは記入された内容をコンピューター端末に入力する作業をおこないます。完了したら、やはり小さな窓を通してバックラインに伝達します。
ここで初めて、市の職員が来庁者の要件の処理をおこなうことになります。つまり、市職員は来庁者と一切言葉を交わさず、フロント、ミドルのラインから送られてきた情報を元に業務処理をおこなうわけです。
業務をラインごとに完結させなければならない理由は、単に効率的というだけでなく、民間事業者に業務委託をおこなっているため、市職員が直接指示を出したりすると「偽装請負」になってしまうからです。
もちろん、誤ってラインごとの業務に齟齬が生じた場合は、それぞれのラインごとの責任者を通じて情報をフィードバックさせる機能はあるとのことでしたが。
説明者は、こうした窓口を開庁することによって市職員の残業は半分になり、正規職員3人分の給料を浮かすことができたと成果を紹介しました。
質疑応答の後、実際に「まどかフロア」を見学させていただきました。
正面には総合案内センターがあります。ここには委託業者の職員が2人。
そして、その脇にはフロアマネージャーと呼ばれる案内係の職員が待機していました。この方も委託です。
総合案内センターでは来庁者から用件を聞き、必要な担当窓口を紹介します。窓口まではフロアマネージャーが案内してくれます。
そしてこれが福祉エリアの担当窓口です。
先ほどの説明のように、最前線で対応してくれるのはフロントラインの委託職員です。
ついたての後ろには、ミドルライン、バックラインが控えており、バックで働く市職員の姿は直接見ることができませんでした。
来庁者に対応する職員はすべて民間人となり、市民を「お客さま」と呼びます。
私もフロアをうろうろしていたら「お客さま、本日は証明のコーナーをご利用ですか」と声をかけられました。
説明では、委託の職員だけでなく、市職員も90%が来庁者を「お客さま」と呼ぶようになり「サービスが向上した」と報告されましたが、私にはちょっとしっくりこないものがありました。
雰囲気としては、市役所というより民間会社になった郵便局に似ています。
こちらは、簡易申請端末機「しょうめい君」。
市民カードを所持している市民であれば、窓口を介さずに住民票や印鑑証明、登録原票記載事項証明書などの発行申請が端末でおこなえるというものです。
市民カードで受付し、食堂の食券販売機のような機械にお金を入れると引換券が発行され、これを受付に持ってゆくとフロアマネージャーが証明書を発行してくれるという手順になっています。
この端末機を使えば、申請書を書く手間が省け、待ち時間なくすぐに証明書が受け取れるということでした。
これで、説明と現地視察は終わりです。
なお、説明の後、大野城市議会議場を見学させてもらいました。小ぢんまりとした落ち着きのある議場でした。
視察を終えての感想ですが、市役所に来庁する市民の利便性をはかる努力はとても大切だと感じました。
北区でも、そう遠くない時期に区役所庁舎の建て替えという大問題が具体化します。窓口を一元化し、区民のみなさんがワンストップでサービスを受けられるように工夫することは、避けられない課題であり、今回の視察の成果を生かせるようにしたいと思います。
一方で、窓口業務の大がかりな民間委託については、正直、疑問を感じざるを得ませんでした。
現在、業務を請け負っているのはビル管理の会社と聞きましたが、市職員の人件費削減のためのアウトソーシングは、社会全体の低賃金化につながりかねません。
また、市民と直接相対して業務を遂行するのは、本来、市職員の重要な仕事となるはずですが、簡単な電話対応はコールセンターに、来庁者の受付はフロントラインに任せっきりとなり、市職員と市民に隔たりができてしまわないかと心配になりました。
窓口からは見えない、バックラインにいる市職員の生の声も、ぜひ聞いてみたかったと思います。